TPPについての専門家の意見まとめ

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2012/09/13 福井健策弁護士インタビュー

これを拝見させて頂きました。 形式が違うのはただまとめたからです。 特に気にしないでください。

著作権など知的分野に詳しい福井健策弁護士。 骨董通りのオフィスにて、TPPとACTAの共通点・相違点・問題点などを中心に話して頂いた。

ACTAの署名は10地域。しかしEU・メキシコでは既に否決されている。 6カ国批准しないと発効しないため、発効自体が黄信号

また、ACTAは一部の権利団体(ハリウッドやレコード会社)によって秘密裏に行われていたが、2008年にリークされ、様々な反対運動を経て骨抜きの内容に。

今年入って、特にヨーロッパで反乱が起きた。 1月にSOPA、PIPAが出てきた際、ネットに検閲を持ち込むものだとして7000以上のネット企業が何らかの反対を示した。

グーグルは450万の反対署名を集め、議会にも300万以上の署名が集まった。 ネット企業はロビイング資金を倍々に拡大していき、ロビー団体『インターネット協会』を作り、前述の法案を『ネットの自由を脅かす』として反対運動を行っている。 ヨーロッパでは、わずか5日で採決の無期延期に追い込んだ。

福井「ドイツでは一日で2万5千人がデモを行った。これはものすごいこと」 岩上「ヨーロッパ全体では250万人がデモ活動をしたとも言われている。」 福井「正確な数字はわからない。ともかく反対署名は250万から300万集まったと言われている。」

ACTAは7/4、欧州議会において否決された。 478 vs 39という大差で、決まった瞬間には議員から拍手が挙がった。 ヨーロッパでACTA発効はもうないといえる。

福井「これらは要するに南北問題。アメリカ・ヨーロッパの持つものと、途上国の持たざるものとの問題。」

「アメリカは著作権と特許の使用量だけで、 2011年海外から9.6兆円売り上げてる。 これは農業・自動車などと比べても最大の輸出産業である。」

とし、

「対して日本は『クールジャパン』などと麻生政権の頃から言われているが、 収入はアメリカの数十分の一の1300億円 国際収支は5700億円の赤字である。」 (※著作権・コンテンツ分野において。特許に関しては計上の仕方もあるが黒字とのこと。)

次にTPPについて。

  • 知財だけ見てもACTAより遥かに強い内容 (過去日本で激論を招き、とうてい通らなかったような著作権や特許の強化が含まれている。)
  • パッケージ化されている。(断ると、『入らないの? じゃぁアメリカより中国を選ぶのね?』)となる。
  • 決め方が秘密裏である。
  • 日本では報道されないが、海外では知財での対立が一番の問題点

などを挙げ、「今回はアメリカ本気です。ちょっとやそっとじゃ譲らないですよ。」とのこと。 「特に古い作品、ミッキーマウス・ホワイトクリスマス(曲)などにおいては、欧米が多くのコンテンツを所有しているため、権利期間の延長や『アサインバック』(二次創作の著作権を、作り手でなく大元の著作者が得ること。)を要求されています。」

岩上「権利期間が延びて日本に得はあるのか」

福井「日本では、古い作品の場合、著作者が見つからない場合がほとんど(98〜99%) その場合、権利処理が出来ずに再利用・二次創作ができなくなる。本当に『作品の死』になります。」

TPPで特に問題視されている内容が二つある。

まずは非親告罪化について。

これは著作権所有者でなくても、国や警察で著作権侵害を取り締まれるもの。 福井「TPPには明文化されている。」とした上で、 「ただ、私個人的の見解ですが、ACTAでは条文や国会での発言から、非親告罪化を義務づけていないだろうと思います」と話した。

「元来日本は二次創作大国であり、基本的にファン活動の延長として行われてきた文化がある。」 また「正直、資料コピーなどの全てを権利処理するのは不可能。」とし、 「やれるものはやろうよ、ただ全部は無理だよ。という雰囲気になっている」 「日本では、はっきり容認するわけではないけど、やりすぎない範囲で『暗黙の了解』があった。」

ところが、「非親告罪化になると、著作権者の告訴が無くても警察が起訴できる。」 「津田さんなどは、お互いに密告しあう『通報社会』になる危険性もあるとしている。」 「国全体が萎縮する。」「日本のグレーでゆるふわな共存関係が崩れる」などと話した。

「一方海外では一定の条件下ではパロディなどは合法。 それゆえ風刺画などが重要な政治文化として生まれた。」 また、「権利者側からすると、他国に対し告訴することは大変であるから仕組みが必要。」

もう一つの重要な内容が、『法廷損害賠償金』

これは実害に関わらず、裁判所が決めた賠償額を支払わなければならない、というもの。 「今までは、損害に応じての賠償だったが、それでは小額過ぎて費用倒れを起こしていた。」 それを解消するための制度として、 「実際にアメリカでは違法にアップロードした作品1作品あたり15万ドルの賠償額を命じることもある。」

医療の分野でも、「医薬品は20年の特許が終わると、(ジェネリック医薬品によって)価格が大幅に落ちる。」 「詳細は省くが、医薬品の保護データなどで、ジェネリック医薬品を作るのがもう数年遅れる可能性がある。」 「医薬品だけでなく、治療法にも著作権が発生する場合がある。」 岩上「医療が高所得者向けになるのでは?」 「開発投資に莫大なお金がかかるため、その分を回収できないと新しい技術は生まれない。  これらは全て、目の前の人命の保護か、研究によって未来の人命を救うのか、非常に難しい問題です。」

他にもスリーストライク制、におい・音への著作権なども議題に上がった。

また、TPPのメディアの報道について 「メディアはおそらく、TPPが妥結して国会承認、という段階になって初めて問題視するだろう。 しかしこのパッケージ協定でそれでは遅い。 声を上げるなら今だ。」と話した。

最後に、「既存のビジネスモデルが崩れてきている。そこ(その対策としてTPPらが現れたこと)も認識しなければならない。」 「既に海外では、音楽CDのフルアルバムが500〜600円で売られている。」

とした上で、 「流通を広めながら収益化する新しいモデルにチェンジしないといけない。その際に、囲い込みモデルの既存コンテンツ企業によって作られたTPPの条文を受け入れるのか?」 「一度TPPに参加してしまうと抜け出すことは不可能。」「条約は国内法よりも優先されてしまう。」 ことから参加に反対している。

岩上「国内で意思決定が出来ないので外に求める。 その考え方は民主主義ではない。奴隷の考え方だ」 福井「そう、奴隷。そんな考え方では次の時代にいけない。 我々は間違える自由がある。それが民主主義の根幹。 自分たちで試み、間違い、考え抜く自由を守り通さなければ行けない。」

また、プラットフォームの寡占によって同じような現象が生じる危険性がある。 「従来の支配階層からネットの権力者へ移るだけになる。」

「結局、著作権はツールに過ぎないんですよ。」 「著作権が守られたけど面白いコンテンツが減った、クリエイターが報われなかった、では意味が無い。」 「どんなモデルでもいいが、それによってクリエイターが報われなくてはいけない。その目的は維持しなくては。」と述べた。

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