そろそろ転職を考え始めるにあたって、自分が何をしたいか、ジャーナリズムとは何か、あたりを考察してみようと思います。
記事の目的
僕個人が、ジャーナリスト(厳密には編集者サイドですが)を目指しているものの、目的がなかなか言語化できていません。
「情報の質を上げる」ことで、ジャーナリズムの目的としてよく挙げられる「権力の監視」や「不正の摘発」、「民主主義の達成」をしたいとは考えていますが、手段や理想の形が具体化できていません。
同様に、最近GnosyやNewsPicksなども出てきて、メディア界隈に関心が集まっていますが、 ユーザーに「何を目的としてメディアを消費するのか」と問うと、 おそらく結構曖昧な回答が返ってくるだろうなと思っています。
「政治に詳しくなりたいから」
→詳しくなったらいいことがありますか?適切なところに投票できるようになる? それよりもその時間を個人のスキル習得に充てたほうが自分のQOL上がるのではないですか?
「ビジネスチャンスがあるかもしれないから」
→では、そのための手段は新聞が最適なのでしょうか? そのメディアを消費したことへの費用対効果はプラスですか?
etc…
情報発信者も同じです。「何を目的としてメディアの職に就くのか?」の問いについての想定は、
「外国の貧困層の惨状を知らせたいから」
→戦争で苦しんでいる人がいるなら知らせなきゃですか? 知らせたら彼らは救われますか? 受け手がわざわざ悲しいニュースを聞いてブルーになる、というマイナスを超えるだけの価値はありますか?
「楽しそうだから」
→たしかに情報を発信して承認してもらうことは本質的な欲求です。でも承認してもらえなかった場合に同様にショックを受けます。 また、相手を置き去りにしての情報発信は時にスパムになりえます。
etc…
そこで、メディアの目的について改めて考えてみることにします。
メディア企業の目的
メディアとは「情報の媒体」と言う意味です。それ単体では目的を持ちません。
つまり、一般的なメディア企業とは、メディアを通じた情報発信を用いて「何かの目的」を果たすための組織のことです。
一般的なメディア企業にはどんなものがあるでしょうか?いくつか例示してみます。
- 新聞
- テレビ
- 広告
- アート
- 雑誌
- 教育
- 思想・哲学
- 雑誌以外の本
- ルポ
これらが何を目的に活動しているか、僕はすぐに思い浮かびません。 おそらく企業内でも定まっていないのではないでしょうか。 (少なくともマスコミの大半は、組織の存続が目的化していると賭けてもいいです。)
なので、既存の枠組みにとらわれずに、本来の目的を個人的に大別してみました。
以下、それぞれについて具体的に述べていきます。
- 趣向の共有・啓蒙
- 教養・ビジネスのタネとして
- 個人の発信・議論・承認欲求の充足
(ここでは、ルポライターに相当するものは取り上げませんでした。 あれは研究の一部であって、研究結果とそれを報道することはまた別だと考えるからです。)
趣向の共有・啓蒙
ブランド化された個人・あるいは組織が提案する趣向・思想を集団で共有するもの。
雑誌やマンガ、テレビ、SNS、バイラルメディア、有名人プロデュースのSHOP、新聞のコラム・社説欄、あるいは美術館などが該当します。 (また、ブランディングのために運営しているオウンドメディアもこれに該当すると言えそうです。)
ブランディング・信頼されていれば、記事自体の良し悪しにあまり関係なく継続的に利用されるようになります。
啓蒙に関して言えば、視聴者に知識や思想を伝達することで、 社会の正しいあり方(民主主義・勧善懲悪・愛国心など)を啓蒙していくことができます。
そして、自分たちの考えるあるべき姿に向かっての行動を誘発することができます。 (一歩間違えれば洗脳ですが、宗教や哲学と本質的には変わりません。誰が得するかくらいです。)
フリージャーナリストと呼ばれる人々もココに相当すると思います。 この目的の元で考えると、ジャーナリスト、という分類がイケてないとも思います。
教養・ビジネスのタネとして
視聴者のニーズが一定数の明確なものがあって、その需要を満たすために情報提供の組織ができて運営されるもの。
既存メディアでは、ロイター、日経新聞、ブルームバーグ、天気予報、単行本・文庫本などが該当する。
現状起きている問題を知ることで、活動・アイデアのタネにすることができる。(政治家や起業家がイメージしやすい。)
あるいは、集団での共有の知識とすることで、話のきっかけになりうる。
この場合、何が「教養」にふさわしいかの判断が難しいが、 事実の伝達に注力すれば作り手はある程度楽になる。
個人の発信・議論・承認欲求の充足
そのメディアを場として、ユーザーが各自で情報のやりとりを行うこと自体を目的とするもの。
既存メディアでは、ブロゴス・2ちゃん(&まとめサイト)・ニコ動などのCMS系のサービスが該当します。
議論や共感(イイね・RT)を通じて、人間誰しもが持っている承認欲を充足させることができる。
運営者は場を提供するのみで、特定の主張をするわけではないので、 一般に言うメディア企業のイメージとは異なるかもしれない。 ただ、UIを通じて情報伝達の形を提示することはできる。 (FBなら人との繋がり、Twitterなら共感と拡散、ブロゴスなら大人の議論)
これらのことから、現状の問題と思えること
上記の通り、メディアの目的を3つに大別してみました。
この目的に沿って改めて既存メディアを見ると、色々な問題点が浮かび上がります。
大きく以下の点です。
- 手段の目的化
- 事実と主観の混同
- 媒体と内容のミスマッチ
- 画一的・総合的な情報発信
- 違法コピーの氾濫
手段の目的化
組織の継続自体が目的になっているものは数多くあります。
例えば、
- どんな広告でも構わず載せてUIが悪くなる
- PV稼ぎのための煽りタイトルを使う
- 内容がなくても毎日更新する
テレビや新聞なんかも広告主に遠慮してコンテンツを修正していたら本末転倒だと思うのですが。
それもこれも、組織の存続が義務のようになっているからこその弊害だと思います。
「存続しないことには意味がない」というお題目の上でダブルスタンダードに苦しんでいるメディアが、 本来の目的を果たせているとはとても思えません。
事実と主観の混同
CMS系サービスで顕著な例ですが、
- 自分の主張にあうものを探してきて、真偽不確かなのに「こういう事実がある」と主張する
- あたかも事実だけ伝える中立的な立場に見せて、言い回しや内容の選び方が偏る
というのはよくある話です。
まぁ、それが事実なのかデマなのか真実なのか、というのは学問の世界ですら不確かなものなので解は出ませんが、少なくとも、
- 事実とされているもの(地球は回る・STAP細胞は正式に確認されていない。)
- 事実かどうかはっきりしていないもの(在日中国人はほぼスパイ・STAP細胞は存在しない。)
などの線引きをきちんと行う必要があると思っています。
媒体と内容のミスマッチ
例えば、ジャンプやマガジンなどは毎週売られていますが雑誌単体では利益にならないんだとか。 その中の連載が単行本化して売れることでようやく回収できるモデルのようです。
であれば、雑誌はむしろタダで電子版などのカタチで配布するほうがファンが増えるのではと想像しますし、実際に始めている例もあります。
また、新聞などのように毎日一定量を配信し続けないといけないモデルだと、枠を埋めるために文字量を調整したり、かさ増ししたりする必要が出てきます。 本来の目的からすると本末転倒に思えます。
逆にネット上だけで完結してしまうとファンを確保しにくい部分があるため、リアルなグッズなどを活用する例もあります。 (音楽を買う際、音源のダウンロードよりも特典付きCDやライブのほうが満足度高いみたいな。)
画一的・総合的な情報発信
誰に対しても同じように、全体のコンテンツを紹介してしまっています。
これがあるから、ユーザーは利便性の面から、まとめサイト、バイラルメディア・アンテナサイトが流行ると考えています。
まとめサイトは記事に対しての色んな人の意見(偏ってるけど)が聞けるし、 バイラルメディア系は、「笑える動画」のようにかなりターゲットを絞った上で、 コンテンツとシェア機能だけ搭載したシンプルで使いやすいUIになっています。
総合メディアは尖らずにどのユーザーでも使える分、特定のユーザーに対してはあまり使い勝手がよくありません。
違法コピーの氾濫
特にバイラルメディアやまとめサイトと呼ばれるたぐいのサービスは、 ほとんどが許可無くコンテンツを流用しているモデルです。
これをやられると、コンテンツ製作者は制作費の割に合いません。
問題点の解決策
以上の問題を受けての改善案を考えます。
メディア運営は趣味でやるべき
人気が出て忙しくなったら、結果的に専任で働くのはアリ。 しかし、組織化したあとに、存続が目的化してしまうともう本来の意図とズレる。 そのためには、働いている人全員が、「他でも生きていけるけど今はこれをやっている」くらいのスタンスが必要。
フリージャーナリストというのは、資産家の娯楽か、副業としてやらなければ真の独立とは言えないと思います。
評価経済・FREEexモデルの導入
その情報が事実かそうでないかを知るのに、わざわざ一次情報に当たるのは手間です。一般人には無理です。
であれば、これまでの言動から信用できる人・組織を見つけておいて、それをフォローする、というのが手っ取り早い方法です。
また、これは組織の運営においても役に立ちます。
メインのコンテンツはフリーにして公開することで広く知られてファンを集め、 ファンに維持費を賄ってもらうお返しに、特定の人しか興味のないコンテンツを提供する。 (ホリエモンのメルマガのような。ホリエモンの日記とか普段考えてることとか、普通の人はあんまり興味ないでしょ。)
これなら収入が安定しやすので、毎日密度の薄い情報を公開してPV稼ぎをする必要がなくなり、本来の目的に特化できます。
さらに、違法コピーも気にしなくていいでしょう。 普通のコンテンツは既にオープンになっているし、広めてくれればむしろいい宣伝になります。(どこかにクレジット入れとけば)
ファンだけの特典については違法コピーされないでしょう。手にしてる人はファンなんだから。
(「ファンがあまりいないような弱小メディアはどうするんだ」については、小さく続けるか、本来のコンテンツの質を上げればいいと思います。 それで無理なら、きっと需要ないから諦めな。)
コンテンツを特化すべき
先述しましたが、バイラルメディアやまとめサイトが流行るのは、それがユーザーにとって使いやすいからです。
総合メディアとなってしまうと、何でもありで複雑なUIになってしまうため、 個々のユーザーにとって使い勝手の悪いサービスになってしまいます。 それを続けるのは、音楽にコピーガードを設けてコンテンツを独占しようとした音楽業界のような残念さを感じます。
あえてユーザーを限定することで、使いやすく利便性の高いUIになると思います。
「でも娯楽系だけじゃなくて政治とかも扱いたい」という声が多数でしょう。僕もそうです。 その場合は、複数のメディアに足を突っ込むのがいいと思います。
そうすると自然と運営規模が小さくなると思いますが、それならニッチでも続けていけるでしょう。
また、議論をしたいならあのサイト・事実だけを掴みたいなら速報のみ扱うサイト・右よりの意見を聞いてみたいならあのサイト、 と分離することで、事実と主張をある程度分離できるのではないかと考えます。
「チェックするサイトが膨大だよ」という場合は、それを上手いこと評価したりまとめるサイトが出てくるので心配はいりません。
まとめ
僕が目指すメディアの形は、
- コンテンツを特化する
- ファンを増やして定期的に課金する
- そもそも収入がなくてもやりたい人だけ運営する
以上を通じて、それぞれのメディアの目的を満たしつつ、良質なコンテンツだけが世に広まっていくんじゃないかと考えます。