永遠の0

| Comments

第二次世界大戦時のゼロ戦についてのフィクション作品。

最後は特攻で命を落としたとあるパイロットについての話。

永遠の0 (講談社文庫)

気になった点をいくつか上げておきます。

細かな指摘をするのは野暮と言われればそのとおりですが、フィクションと言いつつかなりリアルに似せるように作られているので、そこの徹底が至らないと魅力半減です。感情移入にノイズが入ってしまいます。

宮部さんの価値観について

宮部さんは当時としてはかなり珍しく、国家全体よりも個々人の命を大事に捉えていました。 現在の倫理観で考えれば宮部さんの価値観はひどく共感できるものですが、当時としてはありえなかったと書かれています。事実そうなのでしょう。

仮に独学で現代に近い価値観を体得したとして、それが当時でも正しかったという気は僕はしません。

なぜなら、戦争中だとすると自分が助かりたいと考えたら、

  • 相手を殺す。
  • 仲間(日本)を見殺しにする。
  • 戦争の中止を訴える

くらいしか選択肢がないわけです。

当時は上層部が聞く耳をもたなかったと諦めたすると、選択肢は上2つです。 どちらを選んでも、「命を大事に」の価値観というよりは、「自分の周りだけ助かればいい」という価値観です。

これだけ進歩的な価値観を持っていた宮部さんならそこに気付かないはずがない。

宮部さんの最後の選択について

なぜ宮部さんは特攻の直前に機体を交換したのか? 小説を読んだ後でも釈然としなかったのですが、映画の中でもやはりぼかされていました。

ぶっちゃけ、ここは作者のご都合主義な感じがしています。

好意的に解釈するのなら、「妻子も守るし、未来ある若者も守る。両方こなさなくっちゃならないのが幹部のつらいところだ。」(ブチャラティ風)

な感じで、そのためには自分の身が犠牲になっても構わない、と考えたのだろうとも推測できますが、その選択肢は中途半端すぎます。

今まで散々仲間を見殺しにして、国家の存亡(負け≒国家壊滅)より妻子を重視して自分の命を守ってきたのに。。。

せめて、「もう仲間が死んでいくのは耐えられないので自分も死にます。」とかならわかるけど、そうすると読者が宮部さんへ幻滅してしまう。

ということで、作品として完結させ、宮部さんを神格化するためにはあそこで無理やり死んでもらうのが都合が良かったんだろうなーと邪推してしまいます。

そうは言っても面白かった。

エンタメとして

作品は文句なしに面白かったです。個人的には小説のほうがオススメです。

映画はちょっと美談にしすぎというか岡田くんがかっこよすぎたなというカンジで、 小説はボリュームあるけど時代背景などの描写が丁寧でその時代に没頭できました。

戦争を題材としたことについて

フィクションではあるものの、戦争の悲惨さと当時の日本国民(※上層部は含まない)の矜持を上手く取り入れている印象です。

罪悪感に駆られるでもなく、愛国心を掻き立てられるでもなく、かといってきちんと戦争の悲惨さを感じさせているのに、読後には誇らしいような清々しさがありました。

おそらく、あくまで一個人に対しての追憶だったからだと思います。 国家とか関係なく、宮部さんに対して敬礼をしたくなりました。

時代が変わっても、周囲に流されず常に葛藤(思考)を続けて意志を貫く人は尊敬できます。

ああいう生き方がしたいなと思いますよね。

Comments